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NSSOLテック・コラム

Open Innovation

2017/08/25

【技術動向】企業横断の「データバンク」で共創を促進 ~異業種データの掛け合わせとAIで得た知見を新事業創出に生かす~

1社単独のデータを分析するより、企業の枠を超え、複数企業のデータを掛け合わせて分析する方が良質で意外性のある知見を得られるはずです。5月施行の改正個人情報保護法はその追い風になると考えます。当社はこの時機をとらえ、複数企業でデータを共有し、「共創」の場として活用する「メンバーシップ・データバンク」の構築に取り組んでいます。

早瀬 久雄

ITインフラソリューション事業本部
事業企画推進部長
早瀬 久雄

他社との「データの掛け合わせ」でこれまでにない付加価値を生み出す 企業の枠を超えて、データを共有したり流通させたりする動きが始まりつつあります。5月施行の改正個人情報保護法により、個人情報にあたるデータであっても、個人を特定できないよう十分に匿名化したデータ(匿名加工情報)であれば、本人の同意なしに目的外利用や第三者提供をしてもよいことになりました。個人のプライバシーを守りつつ、質の高いデータをビジネスに活用する道が開けたのです。

このような新しいビジネス環境では、「共創」によるイノベーションを進めやすくなります。例えば、1社が保有するデータだけでビジネスに役立つ分析をしようとしても自ずと限界がありますが、もし信頼のおけるお客様同士で「データを匿名化して掛け合わせる」ことができれば、これまでにない付加価値を生み出せるのではないだろうか。こうした共創による新事業創出や競争力向上への期待は高かまっています。

しかし、機運が盛り上がっても、なかなか具体的な共創活動にはつながりにくいものです。当社としては、そのきっかけづくりや推進のお手伝いをするために「メンバーシップ・データバンク」というプラットフォームの構築に取り組んでいます。

メンバーシップ・データバンクは、当社のデータセンターにデータを預けているお客様を対象としたメンバーシップ制の共創データ分析基盤です。

データバンク・プラットフォームの構成(図1)

主として、各社の生データを蓄積する「データレイク」と、そのデータに前処理(クレンジングや匿名化)を施したうえで集約する「データバンク・ストア」で構成しています。データレイクでは各社のシステムとデータは完全に独立していて相互に参照することはできませんが、データバンク・ストアでは掛け合わせたデータを各社が共有でき、共創に向けた様々な分析に利用できます。

共創に必須の「匿名化」がカギ人材育成によりコンテストでW受賞

このプラットフォームに関して、二つの点に注目してください。
一つは、意外に思われるかもしれませんがデータの「匿名化」技術です。実は匿名加工の巧拙は、データ分析の成果に大きな影響を与えてしまうからです。

精度の高いデータ分析をするには、匿名化したデータの粒度をできるだけ小さくする方がいいのですが、しかし、そうすると匿名化したはずのデータを用いて「このデータは誰か」を再識別されやすくなり、改正個人情報保護法の要件を満たせなくなる可能性があります。現時点では、匿名加工に定式的な手法がなく、相反する二つの要件をバランスよく満たすには高度なノウハウを必要とするのが実情です。

当社は匿名化技術の重要性が増すと考え、この分野の人材育成に取り組んできました。その成果として、2016年10月に開催された匿名化技術のコンテストで当社の研究員が「3位入賞」したほか「再識別賞」も受賞しました。再識別の手法に精通することは、匿名化手法の高度化にもつながります。ダブル受賞したのは当社だけであり、この分野で豊富なノウハウを持っていると自負しています。

もう一つの注目点は、このプラットフォームがお客様のデータを当社のデータセンターから「一歩も外に出さない」構造になっていることです。もともと当社のデータセンターにデータを預けているお客様だけのメンバーシップ制であり、データの移動が当社のデータセンター内に限られているため高いセキュリティを確保できます。

分析者はデータセンターの外にいるが、画面転送方式のデスクトップ仮想化技術(VDI)を使い、分析ツールの操作・結果画面だけを外部の分析者に転送します。これもデータを外部に出さないための対策です。ウェブ分離した環境なので、たとえ分析者のパソコンが標的型攻撃を受けたとしてもデータが流出する心配はありません。

デジタルイノベーションを一貫支援DataRobotは分析作業を革新する

メンバーシップ・データバンクは、本誌の前号(2016 Winter)で紹介した「IoXソリューション」やAI(人工知能)を用いた分析ツール「DataRobot」などとともに、当社のデジタルイノベーション・プラットフォームを構成する重要な取り組みと位置付けています

デジタルイノベーション・プラットフォームの全体像(図2)

デジタルイノベーション・プラットフォーム全体では、モノとヒトが高度に連携するIoXソリューション(図2の黄色部分)によってモノやヒトから稼働・作業状況のデータを取得し、メンバーシップ・データバンクのデータレイクに蓄積。そこからデータバンク・ストアをつくり、データ分析によって新しい知見を発見したり成果を可視化したりする、という流れになります。

データ分析環境では、DataRobotによって分析作業の生産性を飛躍的に伸ばすことができます。分析手法やプログラミングに詳しくないユーザーでも、世界トップクラスのデータサイエンティストのノウハウに基づいて分析モデルを自動生成できるからです。

例えば、銀行で貸し倒れのリスクを予測したいとします。過去の取引データから、貸出先の年収、与信ランク、延滞実績などと、実際に貸し倒れを起こしたかどうかをDataRobotに読み込ませて機械学習させると、自動的に高精度な予測モデルを作成してくれます。この予測モデルに新しい貸出先の年収、与信ランク、延滞実績などを入力すれば、その人の貸し倒れリスクを算出できるようになります。

しかもDataRobotは、内蔵する1000種類以上の分析手法(「ブループリント」と呼ぶ)の中から分析対象に最も適切と判断した約30種類を自動抽出し、それぞれに予測モデルを生成します。

DataRobotは約30種類の予測モデルを並列で作成(図3)

さらに、これら30種類の予測モデルの中から特に精度の高いモデルを数個選び、もう一段高い予測精度のモデルをつくり出す「アンサンブルモデル」も自動生成してくれます。このアンサンブルモデルは、高度なスキルを持つデータサイエンティストが数週間かかっても達成できないほどの高い予測精度をもっています。

このように、人間がやれば数週間かかる作業を、DataRobotなら完全な自動化によりわずか数十分で完了します。「データサイエンティストがいない、足りない」という問題の解消に加え、自動化によって浮いた時間を新たな知見の探索や事業価値創出に回すことができるのです。

また、DataRobotには予測結果の理由を示す「リーズンコード」という有用な機能があります。例えば会員向けウェブサイトにおける行動履歴から、ある会員が近い将来に退会してしまうかどうかを予測する場合を考えてみましょう。一般的な予測モデルであれば、「最近の行動履歴から、会員Aさんは退会しそうです」という予測はできます。一方、DataRobotの場合は予測結果に大きく効いたパラメーターをリーズンコードによって知ることができます。行動履歴データと照らし合わせば「会員Aさんは退会しそうです。なぜなら最近2週間ログインしていないし、最近3カ月間の購買額も徐々に減少しているからです」ということまで説明できるようになる。
ここまで分かれば、会員Aさんにどんな対策を打てばよいかを考えることができます。リーズンコードを活用すると、分析結果をアクションにつなげやすくなります。

分析業務全般を支援する環境としては、お客様ごとに独立したデータ分析環境を提供するクラウドサービスDataVerac(i ダータヴェラーチ)@absonne(アブソンヌ)を用意しています。

Data Veraci@absonneの構成(図4)

特長は、分析プロジェクトの推進に必要な機能をオール・イン・ワンで提供し、PoC(概念実証)を素早く簡単に開始できることです。実際のデータ分析プロジェクトには分析者以外にも多くの関係者がいるため、プロジェクト内のコミュニケーションを促進することが成果に影響します。このような実態を踏まえ、各種の分析ツールだけでなく、トータルで分析業務を支援することが重要と考えています。必要なら当社のデータサイエンティストがお客様のデータ分析を支援するサービスもそろえています。

お客様同士の共創の「場」を用意
関心高く、きっかけさえあれば動き出す

ここまでは技術的な側面から当社のソリューションを紹介してきましたが、これらを活用して「お客様同士の共創を支援していく」のがメンバーシップ・データバンクの本当の狙いです。

メンバーシップ・データバンクのコンセプト(図5)

当社のクラウドサービス「absonne」のお客様だけでも100社を超え、業種・業態も多岐にわたります。当社は、その多様性から生まれる共創活動を、技術だけでなくビジネスやマネジメントの側面からも支援していきたいと思っています。

新事業創出のイメージとしては、複数の流通企業のデータを組み合わせ、お客様の就職や結婚、引っ越しといったライフイベントに合わせてマーケティング施策を打つ「ライフステージトラッキング」のような取り組みができるでしょう。

ビジネス創出のイメージ(図6)

ここでは当社のビジネスコンサルタントやアカウントリーダーがビジネス革新のお手伝いをするほか、必要に応じて外部のコンサルタントを活用することもあります。

実際にあった案件として、日本のある業界での共創例があります。この業界では海外勢に押されて日本企業が苦戦していたため、「オールジャパンの体制で新たな製品を開発できないか」という構想が持ち上がりました。普段は競合するメーカー同士ではありますが、共同でデータバンク・ストアの環境をつくり、データサイエンティストたちによる分析モデルのコンペを実施して優れた分析モデルを開発しよう、というものでした。まだ実現には至っていません、有力な共創モデルの一つと考えています。

メンバーシップ・データバンクの取り組みの一環として、共創の「場」も提供します。当社が旗振り役となり、お客様同士が共創を始めるきっかけとなるような場づくりを目指しています。

すでに先行事例では大きな手応えを得ています。昨年12月のプライベートユーザー会でメンバーシップ・データバンクによる共創を呼びかけたところ、「こういう共創の取り組みは非常に良い。ぜひ進めたい」とほとんどのお客様に賛同していただけました。

その中でも、すぐに始めたいという積極的なお客様が2社ありました。まったくの異業種でしたが、今年2月に両社の事業責任者らと当社で個別にミーティングを開き、お互いの事業の強みや「何ができるか」というディスカッションを行いました。わずか2時間程度の議論でしたが想像以上に盛り上がり、一方が持つ市場に対して、2社がタッグを組んで新ビジネスを創出する構想が出来上がりました。それをもとに、両社はより具体化するための検討を進めています。

この2社とは別に、12月のユーザー会に参加していた企業の取締役がメンバーシップ・データバンクに興味を持ち、「わが社の情報システム部にも説明してほしい」と依頼され個別説明会を開きました。そこで前述した2社の共創活動を紹介したところ、「わが社も一緒に取り組みたい」との意向を示されました。きっかけさえあれば、共創活動への関心は思いがけない勢いで広がっていくものだと感じています。

共創には難しい面もありますが、新しい次元のビジネスをつくるチャンスは、実際にチャレンジしたお客様の中にしか生まれません。だからこそ「一緒にやりませんか」と様々なお客様に呼びかけています。いずれは「オールジャパンの体制」をつくれるくらいにメンバーシップの輪を広げ、日本が抱える社会的課題を解決していきたいと考えています。